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大阪高等裁判所 昭和34年(う)1263号 判決 1960年2月18日

被告人 力武ふみ子

主文

本件控訴を棄却する。

理由

控訴趣意第一点(法令の解釈適用の誤)について。

所論は、原判示第三の事実について、刑法第一〇五条の二は正しい証言の保護を目的としたもので、捜査又は裁判において証言の済んでいない者のみを客体とする趣旨で、文理解釈上証言の終つた者は含まれないと解すべきである。してみれば被告人の本件所為は有元まさゑが藤村光子に対する売春防止法違反被告事件の証人として証言を終つた後になされたものであつて、被告人において右有元を威迫してその証言を取消させる目的も希望も有していなかつたのであり、審判を過まらせる虞は毫もない。然るに原判決は被告人の本件所為が有元の証言をなした後の威迫であることを認めながら右所為に対し刑法第一〇五条の二を適用したことは同法条の解釈適用を誤つたものであると主張するのである。よつて案ずるに、原判決が、藤村光子に対する売春防止法違反被告事件の公判廷において有元まさゑの証言の後に、被告人において、藤村コシヨと共謀の上、右有元に対し本件威迫の所為に出でたものであると認定し、該事実に対し刑法第一〇五条の二を適用したことは、所論指摘のとおりである。しかしながら、同法条は刑事被告事件の証人等の個人的平穏を保護するとともに、刑事司法の適正な運用を確保し、これを阻害する者を処罰する趣旨であつて、当該事件が未確定状態にある間に行われる本条所定の行為が処罰の対象となるものと解するのを相当とする。してみれば、たとえ本件のように有元まさゑが一度証人として証言した後においても判決確定前においては、なお同人が再度証人として尋問を受けることも予測され得ることであり、又被告人において右証言を取消させる目的も希望も有しなかつたとしても、その行為自体が刑事司法の適正な運用を阻害するものとして同条処罰の対象となるものであつて、右目的、希望の有無は本件犯罪の成否には影響はない。その他所論に鑑み記録を精査しても原判決には所論のような法令の解釈適用の誤はない。従つて論旨は理由がない。

控訴趣意第二点(量刑不当)について。

よつて記録を精査し案ずるに、被告人の本件各犯行の動機、態様、罪質並びに生活環境等その他記録に現われた諸般の情状に徴すると、所論の事由を考慮に容れても、原判決の科刑が重過ぎるものとも、刑の執行を猶予しないことを失当とも思われない。従つて論旨は理由がない。

(裁判官 山本武 三木良雄 古川実)

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